受難節第1主日(2016年2月14日)説教要旨  
 

「信仰における消費者根性」
(マルコによる福音書10章35〜45節)
北村 智史

 標記の聖書個所(マルコによる福音書10:35〜45)は、ゼベダイの子ヤコブとヨハネが、将来自分たちを右大臣、左大臣にしてほしいとイエス様に願い出た場面です。これまでに、イエス様は御自分の死と復活を三度も予告して、御自分がすべての人々の罪を背負って十字架にかかって死に、そこから復活することを通してすべての人々の罪の贖い、救いを成し遂げるメシアであることを弟子たちに知らせていました。にもかかわらず、ゼベダイの子ヤコブとヨハネはなおもイエス様のことを、当時多くの人々が期待していたように、自分たちを支配するローマ帝国を打ち破り、かつてのイスラエル王国のような王国を再び打ち立ててくれる、そうしてこの世的な繁栄をもたらしてくれる軍事的・政治的リーダーとして、そのような華々しいヒーローのようなメシアとして捉え続けました。そして、「栄光をお受けになるとき」、すなわちイエス様が王様として御自分の王国を打ち立てる時には、自分たちを右大臣と左大臣にしてくださいとこの世の権力を願い求めたのです。これに対して、イエス様は、「わたしの右や左にだれが座るかは、わたしの決めることではない」とお答えになって、2人の願いをきっぱりとお断りになりました。そこには、この世的な栄光を願い求めるのではなくて、自分の十字架を背負って私に従う者となって欲しいというイエス様の気持ちが込められていたことでしょう。
 しかしながら、話はここで終わりませんでした。他の10人の弟子たちが、ヤコブとヨハネが抜け駆けをしてイエス様にお願いをしたことで腹を立て始めたのです。結局、12人の弟子たちは皆、イエス様のことをきちんと理解してはいませんでした。自分たちの願望を叶えてくれる都合のいい存在としてイエス様のことを捉えていて、イエス様に我にこそはこの世的な繁栄を与えて欲しいと願い求めていたのです。そんな弟子たちの様子を目の当たりにして、イエス様は一同を呼び寄せ、「あなたがたは人の上に立って人を支配しようとするのではなく、私に倣って、人の下に立って仕える犠牲愛の生き方を志しなさい」と弟子たち一人ひとりに訴えました。これが、本日の聖書個所に他なりません。
  このような聖書個所を読んで、私は今回、12弟子皆が上昇志向に捕らわれていたこと、また自分の勝手な願望を叶えてくれる都合の良い存在としてイエス様のことを考えていたことが印象に残りました。そして、今の私たちの信仰について振り返らされたのです。今の私たちもまた過剰な競争社会の中で、上昇志向の価値観に捕らわれながら日々の生活を生きていますが、そのような中で、私たち、自分の勝手な願望を叶えてくれる都合の良い存在として神様のこと、イエス様のことを捉えてしまってはいないでしょうか。さらに言えば、自分が何かの利益を得るために、そのために神様、イエス様のことを信じる、教会に来る、礼拝を捧げるということをしてしまってはいないでしょうか。
  ここで私たち自身の信仰について振り返ってみれば、私たちは、心の慰めが欲しいとか魂の充足を得たいとか言ったように様々な願望を持ち寄って、様々な利益を神様に、また教会に求めます。そして、神様への応答や奉仕など、しんどいこと、自分にとって都合の悪いことは避けようとしがちです。自分にとって都合の良い、自分勝手な利益ばかりを追い求めがちなのです。そして、そうした利益が得られているうちは良いのですが、そうした利益が得られなくなってしんどいことばかりになってくると途端に信仰に躓き、教会を離れてしまいがちです。けれども、そのような態度は、私たちのエゴの現れであり、神様をも支配、コントロールして自分の願望を叶えさせよう、言うことを聞かせようとする私たちの思い上がりの現れでしかありません。
  私たちはなぜ神様を信じるのか、教会に来るのか、礼拝を捧げるのか。それは決して功利的な目的や実用主義的な目的のためではありません。そうではなくて、イエス様の十字架の出来事を見れば分かるように、神様が御自分の愛する独り子イエス様をも惜しまず犠牲にするほど私たちのことを愛してくださった、そして今も愛してくださっているからこそ、これに感謝して、この愛のもとに留まるために私たちは神様を信じ、教会に来て礼拝を捧げるのです。2月10日の灰の水曜日から始まったレントのこの期間、自分の勝手な願望を叶えてくれる都合の良い存在として神様、イエス様のことを捉える、また功利的、実用主義的な利益ばかりを求めて神様、イエス様のことを信じ、教会に来て礼拝を捧げようとする、そのような信仰における消費者根性をまずは悔い改めましょう。そうして、皆で一緒にイースターを迎える心の準備をしていきたいと願います。

 
 
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