受難節(レント) 第5主日(2020年3月29日)礼拝・説教要旨
 

「愛が冷えるこの時代に」
(マタイによる福音書24章3〜14節)
北村 智史

 皆さんは、「終末」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。一週間の終わりの方という意味の「週末」ではありません。「世の終わり」という意味の言葉です。実はキリスト教では、歴史は直線で捉えられていまして、「天地創造」、「神様が天地万物をお造りになった」という始まりから、キリストが再臨する「終末」、「世の終わり」に向かって、一直線に進んでいくと考えられています。では、この「終末」、「世の終わり」の時には、はたしてどのようなことが起こるのでしょうか。標記の聖書個所(マタイによる福音書24:3〜14)は、イエス様がそのことをお教えになった箇所に他なりません。さて、どんなことが書かれてあったでしょうか。
  イエス様がオリーブ山で座っておられた時のことです。弟子たちがやって来て、ひそかにイエス様に尋ねました。「ねえねえ、イエス様。世の終わりの時には、どんなことが起こるのですか」。この質問に、イエス様はこうお答えになりました。「その時には、『自分がメシアだ。救い主だ』と嘘をついて人を惑わす偽のメシア、救い主がたくさん現れますから、惑わされないように気を付けなさい。また、その他に戦争が起こり、その噂をあなたたちは聞くでしょう。それだけでなく、飢饉や地震も起こります。さらに教会に対して迫害が起こり、教会の中で信仰を失う者や堕落する者が大勢出ます。社会には不法がはびこり、多くの人の愛が冷えます。しかし、そうした中で全世界に福音が告げ知らされ、それから新しい天と新しい地が成る終わりの時がやって来ます」。
  要するに、イエス様は「終末、世の終わりの時には大混乱がやって来ますよ。それがいつやって来てもいいように、覚悟ですね、心の備えをしておきなさい」と、そう仰ったのです。そして、「最後には自分が必ずやって来て新しい天と新しい地を成し遂げるから、その希望を胸に苦難を乗り越えなさい」と仰ったのです。
  イエス様の弟子たちは、イエス様のこの言葉をしっかりと胸に刻みました。そして、イエス様が十字架と復活の出来事を成し遂げられて天へと昇って行かれた後、教会を建てるのですけれども、その教会に集う人々は何か大きな苦難に直面するたびに、「ああ、終末がやって来ているのかな」と思い、けれども「必ずイエス様がその先に希望を備えてくださる」と信じて、辛い中を乗り越えてきたのです。
  それは、今の私たちも一緒です。皆さんは「世界終末時計」というのをご存じでしょうか。それは、核戦争などによる人類の絶滅(世の終わり、終末)を午前0時になぞらえ、その終末までの残り時間を「あと何分(何秒)」という形で象徴的に示した時計です。
この「世界終末時計」は、日本への原爆投下から2年後、冷戦時代初期の1947年に、『原子力科学者会報』というアメリカの科学誌の表紙絵として誕生しました。この時は終末まであと7分とされていましたが、以後、この科学誌は定期的に委員会を設けてその「時刻」の修正を行っています。すなわち、人類滅亡の危険性が高まれば時計の針が進められ、逆に危険性が下がれば針が戻されるのです。1989年10月号からは、核兵器の脅威だけでなく、気候変動による環境破壊や生命科学の負の側面による脅威なども考慮して、針の動きが決定されています。 これまで、最も時計の針が戻ったのは、ソ連崩壊により冷戦が終結した1991年の17分前でしたが、イランとアメリカの関係が悪化し核戦争の危険性が高まった今現在の2020年は最も針が進み、100秒前とされています。
  こうしたことを思えば、今はまさに終末が間近いと言えるのかもしれない、そんな混乱した世の中です。けれども、そのような中を、私たち教会は、「必ずその先にイエス様が希望を備えてくださる」、このことを信じて苦難の中を耐え忍びます。そうして、神様の御国が成るように最善を尽くしていくのです。
  標記の聖書個所を読みまして、私は、「終末の時には、多くの人の愛が冷える」と仰られたイエス様の言葉が最も印象に残りました。今が本当に終末の時かどうか、それは神様しか分からないことで、私たちには分かりませんが、終末を感じさせるような今のこの時代も、やはり「多くの人の愛が冷えている」と感じられることがそこかしこに見受けられるからです。
  たとえば、今月の上旬だったと思うのですけれども、横浜中華街の複数の店舗に、「中国人はゴミだ!細菌だ!悪魔だ!迷惑だ!早く日本から出ていけ!!」と、本当に口にするのも憚られるようなものすごいひどい言葉で中国人を誹謗中傷する差別的な言葉を記した手紙が届いていたことが報道されていましたが、こうしたヘイトなどは本当に「愛が冷えている」実例だと思います。その他にも、さいたま市で朝鮮学校がマスクの配布から外されるなど、コロナなどで世の中が混乱すればするほど、こうした差別、人々の罪が顕在化して来るのです。
  人々の愛がどんどんと冷えていくこの時代にあってこそ、私たちキリスト者はイエス様の教えにしっかりと立ち、イエス様の愛をしっかりと宣べ伝えていかなければなりません。願わくはこのレントの時期、私たち、混乱の中で愛を冷やしてしまうその罪をしっかりと悔い改めることができますように。世の中が大変な時こそ、罪に流されてしまうのではなくて愛を大切にする、愛でもって苦難を乗り越えていく、その気持ちを社会に広く訴えていきたいと願います。

 
 
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