2022年 1月23日(日) 降誕節 第 5主日 教会創立記念礼拝説教
 

「平和に仕える群れとして」
マタイによる福音書 5章 9節 
北村 智史

 今日は教会創立記念礼拝を神様にお捧げしています。東京府中教会は今から75年前の1947年1月25日に、初代牧師の大久保末先生とその奥様で2代目の牧師を務められた、きく先生の手によりこの府中の地に建てられました。実はご夫妻は戦時中、沖縄で保育園を経営しながら牧会伝道に従事しておられたのですが、1944年9月に引き揚げを強要されて、末先生の故郷府中市に戻って来られたのです。東京府中教会の記念誌には、その沖縄からの引き揚げの様子がこんな風に記されています。「大久保末、きく夫妻は、引揚げを強要されて、僅か一二〇トンの最小の船に乗りこみ、五〇隻の船団と共に出港した。船足が遅いために一団からはぐれて難行し、十五日目に、辛うじて鹿児島に辿り着いたのであった。その時、他の大型船の悉くが敵に撃沈されたことを知らされ、唖然とし、且つ、恩寵の聖手に護られたことを悟って感謝したのであった」。末先生・きく先生ご夫妻が東京府中教会を創立される以前に、こうした戦争体験があったことを私たちは忘れてはならないと思います。
  今から3年前の2019年の1月に、東京同宗連の研修旅行で沖縄の対馬丸記念館を訪れた時のことを思い出します。対馬丸記念館とは、1944年8月22日に、沖縄の那覇から長崎へ向かう学童疎開船「対馬丸」が鹿児島県のトカラ列島悪石(あくせき)島付近でアメリカの潜水艦の魚雷攻撃をうけて沈没し、乗っていた約1800人のうち、約1500人が亡くなった、いわゆる「対馬丸事件」を記念するために建てられた記念館です。この記念館を見学していた時に真っ先に頭の中に思い浮かんだのが、先程の末先生、きく先生ご夫妻の戦争体験でした。対馬丸事件が1944年8月22日、末先生、きく先生の沖縄からの引き揚げが同じ年の9月ですから、この時期、沖縄から引き揚げる船が沈められてたくさんの人々が亡くなるこうした悲劇があちこちで起きていたのでしょう。
  府中に引き揚げて来られた末先生、きく先生の心中はいかばかりのものだったでしょうか。なぜ自分たちだけが助かり、他の人々は殺されてしまったのか。なぜ罪もない大勢の人々が亡くならなければならなかったのか。おそらく引き揚げ先の府中の地で、ご夫妻は広島・長崎の原爆の悲劇も耳にされたことでしょう。これほどの悲劇を引き起こす戦争を、ご夫妻は憎んだに違いありません。そして、平和への願いを強く持たれたことと思うのです。
  東京府中教会創立の当初から教会の歩みは保育園事業と共にありましたが、こうした事業の背後にも、ご夫妻の平和への願い、思いが強くあったことでしょう。それだけではありません。末先生は刑務所、少年保護院、老人ホームなど、実に多様な所で働かれ、地域、また社会に仕えられました。私は教会を初め、こうした奉仕の一つひとつにも先生の平和への願いが貫かれていたと思うのです。今日の聖書個所、マタイによる福音書5:9には、「平和を実現する人々は、幸いである、その人たちは神の子と呼ばれる」と記されていますが、まさに末先生、きく先生ご夫妻は「平和を実現する」者として、「神の子」と呼ばれるにふさわしい働きをこの府中の地で為されました。私たちは初代牧師ご夫妻のこの働き、また平和への思いをしっかりと受け継いでいかなければなりません。
  ここで今の世界情勢を振り返ってみれば、このお正月にテレビでこんなニュースを聞きました。国連安保理の常任理事国で、核保有国のアメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリスの5か国が3日、核戦争や軍拡競争を防ぐための共同声明を発表したと言うのです。この中で5か国は、「核兵器の保有国どうしの戦争の回避と、戦略的なリスクの軽減が最も重要な責務だとみなしている」としたうえで「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならない」と強調しました。そして、軍事的な対立を避けるため、外交的なアプローチを追求する姿勢を示すとともに、核の拡散防止の重要性を訴え、軍縮に努めていく姿勢を強調したのです。この声明は、今月4日から開催が予定されていたものの、新型コロナウイルスの影響で延期が決まったNPT(核兵器不拡散条約)の再検討会議に合わせて用意されたものと見られています。
  しかしながら、テレビのニュースでは、この核保有国5か国の共同声明について、2017年にノーベル平和賞を受賞した、国際NGOのICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンのベアトリス・フィン事務局長が、自身のツイッターで「彼らは『よい内容』の声明文を書くが、実際は正反対の行動をとっている。多額の金を投入して近代化を進めながら、核兵器の開発競争を行い、常に核戦争に備えている」と批判したことを紹介していました。そして、台湾有事の危機、ロシアによるウクライナへの侵攻の危機、核を搭載した兵器ともなり得る極超音速兵器の開発競争などなど、身近となっている核戦争の具体的な危機を挙げていました。
  このように核兵器の脅威、またそれによる人類滅亡の脅威がますます身近なものとなっているのが今の私たちの世界です。そのような中にあって、私たち、教会創立75年を記念するこの主日に、初代牧師から続く平和への思い、また平和の働きのバトンをしっかりと受け継いでいきたいと願います。今年も平和に仕える群れとして、皆で一緒に歩んで行きましょう。この世界に平和を実現し、「神の子」と呼ばれるような働きをこの府中から広めていきたいと願います。

              祈りましょう。  ――以下、祈祷――

 
 
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