2022年 4月 3日(日) 受難節 第 5主日 礼拝説教
 

「一人ひとりの力で平和を」
マタイによる福音書 5章 9節 
北村 智史

 早いもので、レントも第5主日を迎えました。このレントの期間はイエス様の御受難を偲びつつ、「悔い改め」をテーマに聖書個所を選び、お話しするということになるわけですが、東京府中教会で迎えるレントも今年で9回目、それも第5主日ということで、こんなことを言うとプロ失格かもしれませんが、だんだんとネタが尽きて参りました。毎回、説教を作る際には黙想というものをいたしますが、特に今回は「何の話をしようか」とあれこれ悩みまして、机の前でじっと考えているよりも、体を動かしていた方が閃きが生まれると言いますか、御言葉が降って来るかなと、何の根拠もないのですが頭を抱えながら牧師館の中をうろうろ、うろうろしていました。クイックルワイパーで家の掃除をしてくれていた妻の邪魔をするように、うろうろ、うろうろ。優しい妻はそんな私に「邪魔!」と言うことなく、「どうしたの」と声をかけてくれました。「次の説教のネタがない。何かいいネタはないだろうか」と藁にもすがる思いで妻に相談したところ、「良いネタがある」とのこと。聞けば、ロシアとウクライナのある二つの絵本が今話題になっているそうで、これらをネタに平和と関連した聖書のお話ができるんじゃないだろうかということでした。
  早速アマゾンで二つの絵本を注文しまして読んだのですが、確かに説教にもってこいの良い絵本なんですね。おかげで今回も無事に説教を仕上げて、主日を迎えることができました。なので、今回のお話を通して何か心に感じるものがありましたら、それは妻のおかげですので、是非とも礼拝後、妻をねぎらって欲しいと思います。
  さて、妻が紹介してくれたのは、二つの絵本です。一つは『てぶくろ』という、ウクライナ民話を元にした絵本で、もう一つは『おおきなかぶ』というロシア民話の絵本です。二つに共通しているのは、「共存と助け合い」というテーマだと私は思います。
  まず、『てぶくろ』という絵本の内容を簡単にご紹介しましょう。このお話は、おじいさんが雪の中に手袋を落としたというところから始まっていきます。最初に通りかかるのは小さなネズミです。暖かい手袋の中が気に入り、住むようになりました。次にカエルがやって来て、「わたしも入れて」と言います。「どうぞ」と受け入れたはいいものの、ウサギやキツネ、オオカミ、イノシシも続いてやってきます。しまいにはクマまで仲間入りして、手袋はパンパンになります。小さなかわいい動物から大きくおっかない動物も仲良く暖を取り、てぶくろに住み着くというお話です。強い者と弱い者がお互いを受け入れ、協力しながら共に生活をしていくという強いメッセージが込められた作品になっていると思います。
  この絵本は最後、おじいさんが犬と共に戻ってきて、「ワン、ワン、ワン」と吠える犬にてぶくろに住み着いていた皆が追い出されて、散り散りに森の中に散っていく、そしておじいさんがてぶくろを拾うというところで終わるのですが、結局権力や武力など、強い力の行使によっていつもこうした平和が壊されてしまう様を描いているのかなと思わされました。
  さて、もう一つの絵本、『おおきなかぶ』はご存じの人も多いかもしれません。簡単に内容を紹介いたしますと、おじいさんが植えたかぶが、甘くて元気のよいとてつもなく大きなかぶになります。おじいさんは「うんとこしょ、どっこいしょ」とかけ声をかけてかぶを抜こうとしますが、かぶは抜けません。そこで、おじいさんはおばあさんを呼んできて一緒にかぶを抜こうとしますが、かぶは抜けません。おばあさんは孫を呼び、孫は犬を呼び、犬は猫を呼んできますが、それでもかぶは抜けません。とうとう猫はねずみを呼んできて、皆で一緒に「うんとこしょ、どっこいしょ」とかぶを引き抜くと、ようやくかぶは抜けるのです。一人で駄目なら二人、二人で駄目なら三人、三人で駄目なら……、そうやって皆で協力することの大切さや楽しさが伝わってくるお話です。皆が仲良く力を合わせれば、平和という大きなかぶも引き抜くことができるのだろうと思わされました。
  今日の聖書個所、マタイによる福音書5:9の御言葉が響いてきます。「平和を実現する人々は、幸いである、その人たちは神の子と呼ばれる」。この御言葉に言い表されているように、私たちは神様に御自分の子として呼んでいただけるように、この世界に平和を実現していかなければなりません。私たちが目指す世界、それは強い者と弱い者がお互いを受け入れ合い、協力し合いながら、一つの地球という住まいで共に暖かく生活をしていく、そんな世界です。今回のロシアによるウクライナ侵攻は、強い力の行使によってそれをぶち壊してしまう、そんな行為に他なりません。
  くしくも3月20日は為政者に、まことに神様を畏れ敬うように、そうして神様の御心を政治に反映していくように悔い改めを呼び掛ける説教を行いましたが、私たち、ただただ為政者に平和への使命を委ねるだけでなくて、一人ひとり自分にできることをしながら、力を合わせて平和という大きなかぶを引き抜いていきたいと願います。たとえ私たち一人ひとりの力はわずかでも、一粒の水滴が集まって大きな海となるように、私たちの力を結集すれば大きな力となり、大きなうねりとなるはずです。人間の罪が溢れ、まさに世界の平和が脅かされている今の世界情勢ですが、自らの力の小ささに落胆することなく、私たちの賜物を何倍にも増し加えてくださる神様の力に信頼して、平和のために祈り、行動していきましょう。神様のもと、一人ひとりの力を合わせて、受け入れ合い、助け合い、協力し合い、共存し合う平和な世界を形作っていきたいと願います。

               祈りましょう。  ――以下、祈祷――

 
 
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