復活日2020年4月12日(日)イースター礼拝・説教要旨
 

「喜ぶ力」
マタイによる福音書28章1〜10節 
北村 智史

 今日は待ちに待ったイースターの日です。できることならば、この日に皆で一緒に礼拝堂で神様に礼拝をお捧げし、イエス様の御復活をお祝いしたかったのですが、今年は新型コロナウィルスの影響により、ご自宅でお祈りを合わせていただくことになりました。受難節がまだ続いているかのような、そんな辛抱の時期、忍耐の時期をただ今私たち過ごしておりますが、このような時だからこそイエス様御復活の恵みを皆で心に留め、どのような絶望の先にも神様によって希望が備えられていることを強く信じたいと思います。願わくはコロナウィルスによる感染症の拡大が一日でも早く収まりますように、そして人々が元の生活へと戻って行くことができますように、イースターのこの日、教会員一同心を合わせて神様にお祈りしたいと存じます。
  さて、今日は聖書の中からマタイによる福音書28:1〜10を取り上げさせていただきました。ここには、イエス様が復活された時のことが記されています。イエス様が十字架につけられて、弟子たちはすっかり絶望してしまいました。「この方こそ、私たちを救ってくれるメシアだと信じていたのに、殺されてしまった。いったいこれから私たちはどうしていけば良いのだろうか」。イエス様の弟子たちはそんな思いでいっぱいだったことでしょう。そんな中、マグダラのマリアともう一人のマリアが、安息日が終わった日曜日の朝早くにイエス様のお墓を見に行きました。イエス様のご遺体に香油を塗ってイエス様を弔おう、そう考えたのです。
  しかし、その時、不思議なことが起こりました。大きな地震が起こり、天使が天から降って来て、イエス様のお墓を蓋していた石をわきへ転がしたのです。天使はその石の上に座りました。これには、番兵たちも婦人たちもびっくりです。天使は婦人たちに言いました。「恐れることはない。十字架につけられたイエス様を捜しているのだろうが、あの方は、ここにはおられない。かねて言われていたとおり、復活なさったのだ。さあ、遺体の置いてあった場所を見なさい。それから、急いで行って弟子たちにこう告げなさい。『あの方は死者の中から復活された。そして、あなたがたより先にガリラヤに行かれる。そこでお目にかかれる。』」
  これを聞いた婦人たちは、恐れながらも大いに喜びました。そして、急いでお墓を立ち去り、このことを弟子たちに知らせようと走って行きました。すると、イエス様が行く手に立っていて、「おはよう」と言われたのです。婦人たちは恐れながらも大いに喜び、イエス様に近寄ってその足を抱き、その前にひれ伏しました。そんな婦人たちに、イエス様は言われました。「恐れることはない。行って、わたしの兄弟たちにガリラヤへ行くように言いなさい。そこでわたしに会うことになる。」
  天使もイエス様も言われたガリラヤとは、弟子たちにとって日常生活を営んできた場所に他なりません。つまり、天使もイエス様も、弟子たちに「あなたがたは日常生活の場で復活のイエス様と出会うのです」と言われたのです。
  これが、今からおよそ2000年前に起こったイースターの出来事です。皆が皆、「もうこれで終わりだ」と思っていた十字架の出来事の先には、これほどの大きな希望が備えられていました。私たちは今日のお話を読むと、どのような絶望的な出来事の先にも、神様は希望を備えてくださるのだという信仰を与えられます。そして、この信仰が与えられるからこそ、私たちはテサロニケの信徒への手紙一5:16〜18にある如く、いつも喜んでいること、絶えず祈ること、どんなことにも感謝することができるのです。キリスト者の力、それはどんな状況の中にあっても希望を持って喜ぶことのできる力、笑うことのできる力ではないでしょうか。
  この喜ぶこと、笑うことについて、最近興味深い記事を読みましたのでご紹介をさせていただきます。「笑うと脳がよく働く」と小見出しが打たれたこんな記事です。
「健康に対する笑いの効果はいろいろな研究で確かめられています。一九七六年にアメリカのジャーナリストが自らの闘病記で『笑うことで自らの難病を克服した』と発表しました。このころから医学的な研究が始まり、笑うことによって免疫力が上がる、ストレスを感じにくくなるといった研究報告が相次ぐようになりました。他にも、体にさまざまな良い効果をもたらすことがわかってきました。笑うことにより脳の働きが活性化し記憶力が向上すること。思いっきり笑うことで腹式呼吸と同じ状態になり、体内に酸素が増えて血行が活発になること。緊張時には交感神経が優位ですが、笑うことで副交感神経が活発になり、自律神経のバランスが整うこと。笑うと鎮痛作用のある脳内ホルモンのエンドルフィンが分泌され、痛みを緩和することなどなど。笑うことはいいことばかりですが、日常生活で自然と笑えることはそんなにないかもしれません。しかし、別に楽しいことがなくても笑顔を作るだけで脳は笑っていると錯覚し、気分がほぐれてきます。『作り笑顔』をするだけでも脳のドーパミン神経活動が活発になり、『快』の感情が引き起こされ、より高いパフォーマンスにつながるという研究報告もあります。」
一頃話題になったゴルフの渋野日向子さんなどは、そのいい例でしょう。女子ゴルフで日本人として42年ぶりにメジャー大会の全英女子オープン優勝を飾ったことはまさに歴史的快挙でしたが、世界中のメディアから「今まで見たことがない」と絶賛されたのは、彼女のプレー中の笑顔でした。優勝争いという極限の緊張状態の中で、コースをつなぐ通路のファンに対してハイタッチをしたり、笑顔を投げかけたり、百戦錬磨の世界のトッププレーヤーたちでさえ「心臓が止まりそうだ」と表現する最終ホールの大緊張の場面でも、彼女は満面の笑顔で強気のプレーで優勝を手にしました。「スマイル・シンデレラ」と呼ばれることになったその笑顔が、結果的に彼女を優勝に導いたと多くの解説者が評価しています。
  このように、笑顔には大きな力が秘められているわけですが、では己のことを振り返ってみて、私たちは普段の生活の中でよく笑うことができているでしょうか。聖書では、「笑う」とか「笑い」とかいった言葉はほとんど出てきません。馬鹿にした笑いや蔑みの笑いは出てきますが、明るい心からの笑いはないのです。しかし、私は思います。あれほど人に寄り添い、愛を大切にされたそのイエス様が、笑わなかったはずはないと。聖書に書かれていないことをどれほど想像して良いか、それは分かりませんが、私はイエス様もその生涯においてよく笑われたと思うのです。
  聖書に「笑う」とか「笑い」とかいった言葉が出てこない代わりに、心も体も前向きに活性化する様子を表した言葉として「喜び」という言葉がたくさん出てきます。ローマへの信徒への手紙15:13では、喜びと平和は希望の源である神様によって得られると記されています。この言葉は、希望の源である神様から無尽蔵に注がれる力があり、そのことに気付く素直さがありさえすれば、私たちは希望と喜びに溢れて生きることができるという事実を、今を生きる私たちに教えてくれているでしょう。
  先程の「笑いの効能」を紹介してくれた敬和学園校長の中塚詠子先生は、その続きに、「笑って任せてみる勇気」と小見出しを打って、こんな言葉を記しておられます。
「私たちはできないことや足りないことばかりを数えて自分を追いつめてしまいがちです。不平や不満をまくし立てることにエネルギーを使いがちです。それは私たちが等しく持っている弱さでもあります。だからこそその自分の弱さの中にうずくまるのではなく、笑って神様にお任せしてみてはいかがでしょうか。それが作り笑いだとしても、その見せかけの器の中にきっと本物の喜びと平和が注ぎ込まれてきます。その副産物として心も身体にも良いことが起こり、免疫力が上がったり、痛みが和らいだりするのではないかと私は思っています。『幸福だから笑うのではない、笑うから幸福なのだ』と言った哲学者がいます。神様からすでにいただいている『喜ぶ力』を使わないのはもったいないです。笑って、喜んで、私たちに与えられている力を確かめ感謝して歩んでいきましょう。」
  まさに「アーメン」と頷きたくなるような言葉です。新型コロナウィルスによる感染症の拡大が収まらず、忍耐の日々が続いていますが、そのような中にあっても、いや、そのような時だからこそ、神様に尽きることのない希望を与えていただき、キリスト者に特有の「喜ぶ力」を発揮して、笑顔でこの困難を乗り越えていきたいと願います。

 
 
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