2021年 8月 1日(日) 聖霊降臨節 第 11主日・礼拝説教
 

「経済優先の罪」
 ヨハネの黙示録 18章 11〜13節 
北村 智史

  今日は平和聖日の礼拝を神様にお捧げしています。8月は6日が広島原爆の日、9日が長崎原爆の日、15日が敗戦記念日と、先の戦争について、また平和について考える日々が続いていきます。その関係で、教会の暦でも8月の第一主日を平和聖日と定めて、平和をテーマにした礼拝を神様にお捧げするようになっているんですね。なので今日は戦争を引き起こしてしまう人間の罪、命の大切さ、平和の大切さ、そうしたことを考えながら一日を過ごしていきましょう。
  さて、今日は聖書の中からヨハネの黙示録18:11〜13をお読みしました。実は聖書には色々な種類がありまして、皆が持っている聖書は「新共同訳聖書」と呼ばれているものだと思います。この「新共同訳聖書」では、ヨハネの黙示録の18章の頭に「バビロンの滅亡」と小見出しが打たれていて、そこから読んでいくとおどろおどろしいことが書かれています。「何のことだかさっぱり分からない」。そんな風に思うかもしれません。ここだけでなくて、ヨハネの黙示録全体がそんな調子なのですが、結論から言いますと、ここはそういうおどろおどろしい謎めいた書き方でローマ帝国の滅亡を描いているんです。
  このヨハネの黙示録が書かれた当時、キリスト者はローマ帝国に支配されて苦しめられていました。その自分たちを苦しめているローマ帝国がもうすぐ神様に裁かれて滅亡するよ。だから皆、希望を持ちなさい。ヨハネの黙示録を書いたパトモス島のヨハネという人はこの預言で人々を励まそうとしました。けれども、はっきりそんなことを書いたら、ローマ帝国の人々に「お前、何を書いているんだ」ってひどい目に遭わされてしまうので、ローマ帝国の人々には分からない、けれども当時のキリスト者だったらぴんとくるような、こんな書き方でヨハネはローマ帝国が滅亡する様子を書いたんです。
  その中でも今日の聖書個所は、ローマ帝国の滅亡を目の当たりにして商人たちが、「ああ、自分たちの商品を買ってくれる人がいなくなった」と泣き悲しんでいる場面です。その商品のリストが12〜13節に記されていますけれども、そこには「金、銀、宝石」で始まり、食料品に続き、「馬、馬車、奴隷、人間」と記されています。当時のローマ帝国では、人間も売買されていたんですね。お金のためなら人の命がどうなろうが構わない、当時はそんな社会だったことが良く分かります。
  でも、それは当時のローマ帝国だけの話でしょうか。今の世界、今の日本では、もうそんなことはないのでしょうか。決してそんなことはありません。世界では今も貧困のために親が子どもを売るなどの人身売買がありますし、今の日本でも、路上に人が立っていて値札が下げられていて売られているなんていう光景は見られませんが、人に無理やり働かされてお金をむしり取られるなど、奴隷状態に置かれている人はたくさんいます。そういう人身売買のケースはたくさんあるんですね。また、人身売買でなくても、たとえば感染拡大が危ぶまれるのにオリンピックを無理やり開催するなど、お金のためなら人の命がどうなろうが構わない、そんな価値観、風潮は今の世界の至る所で見受けられます。特に新型コロナが世界中で蔓延している今は、人の命よりもお金を優先する、また経済を優先する人間の罪が浮き彫りになっているのではないでしょうか。この新型コロナ禍では、人の命を優先した国と経済を優先した国との間で明暗がはっきりと分かれているように私には感じられます。たとえば、ブラジルでは、大統領が経済を優先したために、あれだけ大勢の人が亡くなってしまいました。
  命よりお金、命より経済。そんな風に考える人間の罪は昔も今も、世界の至る所で顔を出します。そして、至るところで悲劇を生むのです。ここで我が身を振り返ってみて、私たちもともすればそんな価値観に流されてしまいそうになることはないでしょうか。そんな中にあって、私たちは改めて聖書の価値観に立ち返らなくてはなりません。
  聖書の中では、私たち一人ひとりが神様の目に価高く、貴い存在と見なされます。私たちを救うためなら、御自分の愛する独り子イエス・キリストを十字架につけても惜しくないほど、それくらい神様は私たち一人ひとりを愛しておられます。そんな私達の命よりもお金の方が大切なはずがありません。今はオリンピックが開かれて盛り上がりを見せていますが、その陰で人の命が粗末にされていないか、改めて考えたいと思います。巷に溢れる経済優先の罪に流されることなく、私たち一人ひとりの命、存在をこの上なく大切に考える聖書の価値観で生きていきましょう。また、そうした価値観をこの世界に広く訴えていきたいと願います。

          祈りましょう。  ――以下、祈祷――

 
 
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